アニメがお仕事! レビュー
職業物、というジャンルがあります。
アニメ・小説・漫画・ゲームなど、どの様なメディアでも万遍なく作品が存在しますが、特にドラマでは扱われる事の多いジャンルですね。
このジャンルの利点は、「物珍しい職業なら、取材さえしっかりすればそれだけでストーリーを組み上げられる」という点で、何気に世の中を見渡せばいくらでも新規開拓ができそうな、金鉱脈なんじゃないかな~と個人的には思ったりしています。

とまあ、ちょっと脱線しましたが、ともかく職業物というのは「今まで他人がやってなかった様な作品を作りたいけど、どうすればいいか分からない」という方にはうってつけの題材だという事です。これまで扱われなかった職業についてきっちりと下調べをして、それを元にドラマ作りをすればいいわけですからね。
とはいえ、何でもかんでも題材に選べば良いというもんでもありません。例えば、バキュームカーで排泄物を回収して回る人々を題材にした漫画を読みたい人など、そうそういないでしょう。描きたい人だっていないはずです。
やはり、選ぶなら多くの人に興味を持ってもらえる職種が望ましいですね。それでいて、業界内の実情があまり知られていないようなものだとより良いです。
僕がそんな事を考えながら書店を漁っていた時、何気なく手にした漫画が本日ご紹介する、

アニメがお仕事! 1巻 (1)
石田 敦子 / / 少年画報社
ISBN : 4785924608





「アニメがお仕事!」です。

さて、この前振りだから当然といえば当然なのですが、この漫画はいわゆるひとつの職業物に位置する作品のひとつです。
で、扱っている職業はもちろんアニメーター! まあ、このタイトルで寿司屋の物語とかやられても困りますしね。
アニメーター。
このブログを訪れている人ならば、一度は興味を持った事のある職業なのではないでしょうか。
ネットなどを通じて色々な話が流れてはいますが、やはり、業界人でない僕らには実体がよく分からないこの職業。「興味を持つ者は多いけど実態はよく分からない」という職業を題材に選ぶという、職業物漫画としての第一ハードルは十分にクリアされています。
もちろん、いくら良い題材を選んでも取材がおろそかではどうにもならないのですが、どうやら、作者である石田先生自身も元アニメーターらしく、製作現場の書き込み等に関しては非常に力が入っています。
もっとも、この作品は「アニメーターという職業について解説する漫画」ではありませんので、

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ところどころに入る嘘だか本当だかよく分からないうんちくなどによって、一定以上の……少なくとも、漫画としてなら十分なレベルのリアリティを確保するに留まってはいますが。
また、「動画」「2原」などといった専門用語が、何の説明も無しにバンバン出てきますので、「まっさらの状態からアニメーターについて知りたい!」という人よりも、「アニメ製作現場の職種などについてある程度知識はある」人の方が楽しみやすいかもしれません。
まあ、単語の意味が分からなかくて支障のあるストーリー展開ではないので、分からない言葉が出てきたら読み終えた後にネットで検索すればいいんじゃないでしょうか。実際、僕もそうやって読みましたし。
そういった意味では、ちょっと読者層を絞っているかもしれませんね。

ストーリー面について触れますが、この作品の大きなポイントとして「主人公への追い込みっぷりが半端じゃない」というのが挙げられます。
まず、アニメーターの話題となると必ず出てくる給料が安いという意見ですが、

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ご他聞に漏れず、主人公達は薄給に悩まされ続けており、酷い時には(これは他にも原因があったのですが)家賃を払えなくなってしまったりもします。
また、特にこれが一番大きいのですが、主人公の周囲にいる人間は非常に嫌な奴が多いです。ええもう、半端ではなく。

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代表的なところでは、主人公の上司ですね。
彼の腐りっぷりはなかなか根性が入ったもので、凄まじい時には主人公が祖母から送ってもらい、職場で配ったドラ焼きをわざと潰したりする程です。漫画界広しといえど、ここまでストレートにムカつく行動をするキャラはそうそういません。
そして、ここが重要なポイントなのですが、この漫画はそういったキャラに一切の報いを与えず、主人公が一方的に怒りを溜め込み、昇華させていくのが基本的な流れです。

これは漫画に限らず、およそあらゆる物語の定石なのですが、悪役は途中でどれだけ威張り散らしたりしていても、最後の最後には何らかの報いを受けるものです。そうする事によって、カタルシスを生み出しているわけですね。
しかし、この漫画にはそれが一切存在しない。憎まれっ子が世にはばかりまくりで、主人公はどこまでも泣き寝入りします。
が、それが他の作品には無いリアリティを生み出しているのですね。
何故なら、現実でも世の中はそんなもんだからです。そりゃそうですね。下っ端にできるのは、「こんな会社辞めてやる~!」と言って出て行くくらいのもんです(その後どうなるのかは知ったこっちゃありませんが)。
主人公達は、自分達の言い分など決して通らない理不尽だらけの世界で、それでも清濁を併せ呑んで理想を目指し、突き進んでいくわけです。

これは、個人的に大いに評価したい部分ですね。
いわゆる職業物というと、「破天荒な主人公がちょっといい事を言うと何故か周りも賛同して状況が改善されていく」というのがありがちな展開として挙げられるんですけども、僕はこれってあまり好きじゃないのです。
第一に、それをやると主人公がやたらと説教臭くなり、上から目線になる事が往々にして起こってしまうからと、第二にリアリティが無いからです。だって、現実じゃそんな上手くいきませんし。
現実に存在する職業で、現実で起こり得ない事をやっていたら、そりゃ嘘っぽい物語にもなりますよ。もちろん、フィクションと割り切って楽しむのは大いに有りですが。
そんなわけで、「壁にぶち当たったら主人公が我慢する」というこの作品におけるストーリーテリングは、なかなか研究しがいがあるんじゃないかと思うわけです。

と、ここまでこの作品の良い点を記述してきましたが、もちろん短所だって存在します。
先にも述べた通り、この作品は主人公が現実につまずくのが基本的な流れなのですが、それ故に少々、打たれ弱いというかメンヘラ気質的な面が多分に見受けられるので、そういうキャラが嫌いな人には若干、受けが悪いでしょう。まあ、この流れで「なあに、俺はへっちゃらだぜ!」というキャラが主人公だとお話にならないので、それは宿命ですね。
ただし、第五巻だけは別で、この巻において主人公はいつも通り壁にぶち当たる事になるのですが、その時だけは明らかに誰が見ても自業自得と言える事が原因で落ち込んでおり、

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そのくせ、上司に逆恨みだけはきっちりします。この時ばかりは、本当に嫌な子だ。

もうひとつの難点は、ちょっと恋愛に比重を置きすぎなところかな。
その辺は割と個人の好みが出てくる部分なので、あくまでも僕が受けた印象として書いちゃいますけども、登場人物達が割と恋愛絡みでイザコザを起こす事が多いのですが、僕としてはもうちょっと仕事関係の揉め事が原因で窮地に追いこまれる展開をメインに据えていてくれた方が好みですね。

そんなわけで、新米アニメーターが安い給料や嫌味な上司にめげず高みを目指していく漫画です。アニメーターという仕事の険しさに触れてみたい方には、オススメ!
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by ejison2005 | 2007-09-01 02:10 | 漫画 | Comments(13)
Commented by パポパポ at 2007-09-01 02:39 x
レビューを見る限りだとかなりタイプは違いそうですが、もう少し安心感のある「アニメの現場」作品だとこれなんかいいですよ。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm57134
Commented by トーリス狩り at 2007-09-01 04:16 x
>職業物
なるほど、吼えろペンとかもこれに当てはまるんですかね?

Commented by トーリス狩り at 2007-09-01 19:15 x
途中送信してしまいました。
吼えろペンととかふたつのスピカとか、でした。
Commented by kk at 2007-09-01 21:13 x
通りすがりだけど、吼えろペンはここで言う職業系漫画とはなんか違うと思う。

Commented by ejison2005 at 2007-09-02 00:34
>>パポパポさん
余裕があったら見てみまふ。
余裕があったら触れたい作品ばっかw
Commented by ejison2005 at 2007-09-02 00:34
>>トーリス狩りさん
ふたつのスピカは読んだことないんで分かりませんが、吼えペンは違うと思いますよ~。
Commented by ejison2005 at 2007-09-02 00:35
>>kkさん
あれはもっとこう、ぶっちぎった何かだと思うんだ。
Commented by トーリス狩り at 2007-09-02 04:30 x
吼えろペンは違うんですか・・・まぁ言われれば確かにリアリティがないしギリギリ職業物
に入るくらい?とか思ってたんですが。
ちなみにふたつのスピカは一言で言うと主人公が宇宙飛行士を目指す話です。
これも今思うと職業物とは少し違うような気が。
Commented by ejison2005 at 2007-09-03 01:45
>>トーリス狩りさん
というか、書いといてなんですけど職業物って定義が難しいかもしれませんね。
教師とか警察官の場合は別ジャンルになる気がしますし。
Commented by パポパポ at 2007-09-03 02:52 x
吼えペンは読んだことがないんでなんとも言えませんが、断片的な情報でなんの根拠もなく妄想すると「味付け過多のエンターテイメント自叙伝」みたいなカンジ・・・なんですかね?
まあそんなのはいいから読めば良いんですけどね。課題が・・・
Commented by ejison2005 at 2007-09-04 04:09
>>パポパポさん
ギャグ漫画でいいと思うお!
Commented by ヌー at 2011-05-28 18:01 x
アニメーターの知人によると、うんちくやら事件やらあるあるネタやら含めて
全部ではないけど大半は普通にあることらしいです。

ただ、漫画的には追い込みは仕事関係メインのがよかったかな
ってのはあるんですが、結構現場だとひどい環境受け入れた上で
死にそうになりながらも楽しくやってますって人も多いそうなので
リアル考えると人間関係が苦難の軸になるのはそれっぽい とも。

その知人も女性のアニメーターさんなんですが
外からみるとブラック企業まんまだなってひどい環境話しつつも
本人は一時自分の未熟さにへこんだ時期があった…っての以外
仕事関係のなにかでやめたいと思ったことはないそうなので…。
Commented by ejison2005 at 2011-05-30 05:37
>>ヌーさん
この主人公はあくまで普通の人っつーか下っ端なんで、何か問題が起きた時(例えば作中の倒産話など)に前面で活躍できないってのも大きいかもしれませんね。

好きなことを一生懸命やってる人ってのは、尊敬できるしリスペクトしていきたいですね。
それはそれとして、もう少し環境がいいといいんだけどな、とは思うけど。