ドロヘドロ レビュー
世の中には、面白い事には面白いんだけど全然名前が売れてない漫画というのがあるもので、本日ご紹介する漫画、

ドロヘドロ 1 BIC COMICS IKKI
林田 球 / / 小学館
ISBN : 4091882714





「ドロヘドロ」は、そういったマイナー名作漫画(どんな日本語だ)の最たる例のひとつです。
この漫画が、その面白さに似合わず無名である理由は色々あって、まず連載しているのが「月刊イッキ」という聞きなれない雑誌である上に、何を考えてか単行本もA4変形サイズ(4コマ漫画集とかでよく使われるあのサイズ)で刊行されているために、ますます目につく機会が減っていくという負のスパイラルが発生しちゃったりしてします。
その上、出版社に力が無いのか、メディアミックス全盛の昨今においてアニメ化などの宣伝活動も一切行っていないために、ますます知名度で他の漫画から水を開けられる結果になってるんですね。
あまりにも知られていないため、そもそも仕入れていない本屋も多いらしく、実際、僕の周辺には一軒しか置いてある店が無かったなあ……。


さて、この漫画の基本設定について説明すると、この世界は魔法を使えない人間達が住む「ホール」と呼ばれる町と、魔法使い達の住む世界とに分かれています。
魔法使い達が使える魔法は、スタンドばりに「一人一能力」みたいなのですが、作中の台詞などから察するに、後天的に鍛えて精度や威力を強化する事が可能っぽいです。
で、彼らがその練習をどこでするかというと、これだけは魔法使いの基本能力であるワープ魔法(どこでもドアみたいなのが出る)でホールへやって来て、ひでえ話ですがそこら辺の一般人に魔法を試し撃ちして、練習し終えた後はまたワープして帰って行きます。彼ら、魔法が使えない奴を人間扱いしてません。
当然、ホールの人間が魔法使いに抱いている恨みは深く、主人公であり、自らも魔法で頭を爬虫類に変えられた被害者であるカイマンとヒロインのニカイドウは、ホールに現れた魔法使いを返り討ちにするのを仕事としています(別に報酬はありませんが)。
このカイマンという男は複雑な背景を有していて、頭が爬虫類である以外にも、どういうわけだか魔法を完全に無効化する能力を有しているのですが、記憶を失っているためにそこら辺の理由を思い出す事ができません。
魔法使いを始末しながら、カイマンの頭を爬虫類に変えた魔法使いを探し出し、彼の失われた記憶を甦らせるというのが、本作の基本ストーリーです。

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そして、この漫画の良い点は、前述のカイマンやニカイドウも大変に魅力的な人間なのですが、彼らが敵対する悪役「煙ファミリー」がそれ以上に素晴らしすぎる事です。
彼らの魅力について語ると、まず上の文章では分かりやすさを重視して悪役と書きましたが、別に彼らは悪人じゃありません。
いや、(下っ端だけだけど)普通にホールで魔法の練習をしたりはしてるみたいなんで、そういった観点では確かに悪人なんですけど、それ以外の面では普通に良い人達です。
カイマン達と対立してる理由も、別に彼らから積極的に喧嘩を売ったわけではなく、「魔法使いが殺されまくってるから危なくて仕方ないんで、他の魔法使いを守るためにも魔法使い狩りを始末する」というもので、いわばカウンターアタックであり、魔法使いの側から一方的に見れば警察的な役割を果たしているわけです。
マフィア的な組織のくせに、警察みたいな事をしているというのは他方でも発揮されており、例えば麻薬(みたいな物)を裏で流通してる組織を潰そうと画策したりもしてますし、出番も多いので途中から読んだりしてると、煙ファミリーの側が主人公に見えるかもしれません。当然、ツラが爬虫類のカイマンは悪役。
煙ファミリーは、個々としても好感度の高い人物がそろっており、第一話から登場する煙ファミリーの下っ端で、普段はヘタレでもそれなりに根性があり、後述する恵比寿の面倒を見たりもしている愛すべき男藤田や、カイマンにやられた傷が原因で心に傷を負い、不思議ちゃんと化してしまった少女恵比寿。
それに、ファミリーの中でも上位に位置する実力者である超強い魔法使いのコンビ、心と能井や、出番は少なくてもその印象的な魔法でやけに存在感の強いターキーなど、枚挙にいとまがありません。
さらに、煙ファミリーのボスである煙さんは面倒見の良さが半端じゃなく、この人はすごい大住宅に住んでいるのですが、ファミリーの人間達もそこに住まわせているために合宿場状態と化しています。
特にお金を取っている様子もなく、恵比寿に至ってはファミリーの人間でもないのに快く住まわせてやっているくらいで、煙さんの大物ぶりがよく分かるエピソードですね。というか、衣食住のうち住を無償で保障してくれるとか、普通に羨ましいぞ煙ファミリー!
また、

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途中から、キクラゲと名づけたペットを飼うようになると、ほとんど単なるペット好きのおじさんと化し、親しみやすさでも頂点に立ったり。普通に、近所とかを探せばいそう。

で、魅力的な悪役の常として煙ファミリーは非常に団結が強い組織なのですが、彼らの特徴として縦の繋がりが非常に太いです。
これはとても珍しい事で、例えば同じく魅力的な悪役集団として有名な十傑集や幻影旅団なんかも繋がりが強いんですけど、それは横の繋がりであって縦の繋がりではありません。
幻影旅団の団長とか、確かにリーダーではあるけどそこまで特別に立場が上ではありませんし(自分でもそういう意味の台詞を言ってましたし)。
それに、十傑集や幻影旅団は少数精鋭でしたからね。
しかし、煙ファミリーの場合は、組織としても規模が大きい(魔法使いの世界でトップレベル)割には上下の仲が良く、特に煙さんは下っ端である藤田の相談にもちゃんと応じて最大現の助力をしてくれたり、上で書いた通りに自分の屋敷へファミリーの構成員を住まわせてあげたりと、非常に部下想いです。
これって、何気にすごく新しい事だと思うんですよね。
確かに、今まで漫画界には数多くの「強大な組織」が登場してきましたが、そこに君臨する首領とか大王とかは、大体において秘密のベールに包まれていたり、腹心の部下達(四天王とか)に実務を任せていたりとかで、あまり前面には出てきません。
ですが、煙ファミリーは常にトップである煙さんが前面に出て、部下達と共に事態へ当たっているために、アットホームな雰囲気を感じるのです。
ゲンバー大王とかも、ビックボスが最前線へ出てくるという意味では近い存在なのですが、彼の場合は単騎特攻だったので、組織として懐が深いのかはよく分からないままでしたね。
今のところ、「上司にしたい漫画キャラ」では煙さんが断トツの一位かな。内海課長とかも上司としては理想的なんですけど、彼の場合はちょっとアンチェインすぎてついてけなさそうな感じもありますし。


まとめると、ドロヘドロという漫画は、各キャラクターが行動するきっかけを作っているのは主人公達なんですけど、漫画としての見所は、それを受けて悪役である煙ファミリーがどの様な行動をとるかにある作品、という感じでしょうか。
カイマンの能力が凶悪なので、一生懸命に彼の素性を解き明かそうとしたりもしますから。
「自分達の能力が通じない強力な敵の謎を解いて打ち勝とうとする」って、普通はどう考えても主人公サイドの役割ですよね。
きっと、煙さんは若い頃、セリエAの選手に憧れるよりもギャング・スターに憧れてたんだ。
あえてこの漫画について欠点を挙げるなら、A4変形サイズのせいか単行本が高い事でしょうか。
一冊九百円とか、通常サイズの単行本と比べたら倍額以上なんだぜ。僕もまだ、高いから三巻までしか買ってないよ。

そんなわけで、高いけど既存の作品ではトップクラスに組織描写が上手い漫画です。オススメ。

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by ejison2005 | 2007-03-08 01:54 | 漫画