皇国の守護者 レビュー
世に戦争を題材にした漫画は数あれど、皇国の守護者よりも面白く『戦争』を描いている作品は無いんじゃないですかね?

まず最初に、簡潔に物語を伝えておくと、明治時代くらいの文明レベルを持つ世界で、主人公達が住む<皇国>と呼ばれる日本をモチーフにした国へ、<帝国>と呼ばれるチンギス・ハーンが建国したモンゴル帝国にブリテンとかドイツとか色々ゴッチャになったみたいな超大国が攻めて来ちゃった、どうしようというのが概要です。
そして、主人公新城直衛中尉(途中から大尉)が配属されている北領(北海道がモチーフ)が戦いの舞台(少なくとも現在は)となるんですけど、この帝国軍がアホみたいに強い上に、数も半端ではなく、

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指揮官まで無茶苦茶有能な上に超美人です! 
そりゃあ、兵隊さん達もやる気が出るさ! ああ、出るさ!
その結果、新城中尉の所属する皇国軍は緒戦で壊滅し、上司である指揮官達も無能揃いという最悪の状況へ追い込まれます。
しかも、指揮官さん達が美人の姉ちゃんならともかく、

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全員むさいおっさんです。
新城中尉が率いている兵士以外は基本的に戦意がガタガタなのですが、そりゃおっさんじゃなあ……。
有能で美人の指揮官>>>>>超えられない壁>>>>>無能でおっさんな指揮官
ですよ。

さて、この漫画の見所としては、やはり『危機的状況へ追い込まれた主人公達が、如何にして現状を打破するか』でしょう。
これ、どんな物語にも普通は盛り込まれている基本的なテーマなのですが、この作品は主人公達への追い込みっぷりが生半可ではなく、
・上司は基本的に無能揃い。しかも、敵の指揮官は超有能(ついでに美人)。
・さらに、大隊規模しかない部隊で敵全軍を何日も足止めしろと命じられます。
・さらにさらに、何とかひねり出した作戦も実行部隊が悪天候で遭難して大失敗。
大体こんな感じです。
ちなみに、これは大勢を見た場合であり、戦術的なレベルではそれこそ無数の危機が彼らを襲います。
そして、この漫画の凄いのはこれら危機を新城中尉は現状持っている駒だけで解決していく点です。
味方側が窮地を打破する際には、偶然の要素は全然絡んできません。
というか、偶然が絡むのは基本的に状況が悪化する時です。
こういうところ、作劇の基本を熟知してるな~と思わされる作品ですね。

上でも書いた通り、窮地からの逆転こそが、全ての創作物で求められている展開です。

もう、それさえキチンとこなせば半分くらいは仕事を終えているといっても良い。
それくらい、これは大事な事です。
恋愛漫画だろうがギャグ漫画だろうが、突き詰めていくと普通はここへ行き着きます。

というのも、物語というのは何かが欠けている状態が元に戻っていくものだからです。

例えば、悪い魔王にさらわれたお姫様を助けるとかまさにそれですね。
悪い魔王にお姫様がさらわれた状態という非日常を打破し、(途中の工程でやや形が変わるかも知れないけど)お姫様が存在する状態という日常を取り戻すわけですから。
恋愛物だと、恋心が満たされてない状態を恋心が満たされている状態へ戻すという感じでしょうか?
そして、この命題をいかにこなすかが全ての創作物の出来を決めるといって過言ではありません。
やはり、理想としては偶然や火事場の底力に頼らず、読者にあらかじめ提示した手札から問題を解決していくのがベストですね。
その点、この作品は徹底していて、

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自分達が生き残るためなら、(もちろん住人は逃がした上で)井戸に毒まで投げ込みます。
打算に満ち溢れた展開といっても、良いかも知れません。
打算を働かせるというのは、要するに全力で問題を解決しようとしている状態なわけですから、創作物においてキャラに打算を働かせる事はとても大事。

そしてもうひとつ、本作で積極的に褒められるべきポイントとして、『キャラには大抵二面性が持たされている』というのがあります。
例をあげると、

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戦う度に震えが起きる様な臆病者なのに、

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いざ戦うと、超Sになる新城中尉とか、

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勇猛果敢で知られる敵の騎士が、

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実は、争いを好まない温厚な性格だったりです。
この、キャラに二面性を持たせるというのは非常に陳腐で使い古された手法なのですが、そりゃ効果的だから使い古されるわけで、本作はその有用性を熟知しています。
大人しい人ほど怒ると怖いとはよく言われますが、それは普段との状態にギャップを感じるからです。
もっと分かりやす例をあげると、普段は粗暴な不良が雨に濡れている捨て猫を拾ってると凄く良い人に見えるとかですね。
不思議なもので人間とは、普段から親切で優しく動物好きな人がそれをやってるよりも、何故か乱暴な不良がやってる時の方が良い人の様に感じられてしまうものなのです。
人間描写において、正の要素は負の要素を掛け合わせる事で何倍もの効果を生み出すわけですね。
この漫画は、ほとんど全ての登場人物が内面に葛藤を備えており、そこから生み出される二面性が深みを与えています。


まとめ
この作品を読んでいると、どうしても剣牙虎(新城中尉達の従えているサーベルタイガー)などの表面的な要素に目がいってしまいがちですが、こういった当たり前の要素を高水準でこなしている事も頭に入れながら読むと、より多くの感動が得られるかも知れません。

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by ejison2005 | 2006-11-23 03:03 | 漫画