異世界料理道 レビュー
 作品ページ。

  ろくに更新もせず読みふけってたシリーズ第八弾。
 ……なんかいつの間にやら大量に更新されていたんですもの。この作者様は速筆であらせられますわ。


 「終わりある」なろう小説

 さて、本作において一番大きなポイントなのは序盤からゴールが提示されているというところですね。

 すなわち、主人公を保護してくれた現地民族達の特産食品を近場の街で認めさせ、現地民族達の地位向上を図る。

 物語はそのゴール地点へ向けて一歩一歩着実な歩みを進めていくものとなっており、これはネット小説としてはかなり異例なものです。

 たまたま僕が読んできた作品群がそういう傾向だったのかもしれないけど、基本的にネット小説というものは終わりを明確に提示されていないものですからね。
 なろうの異世界ものっていうのは、基本的に「終わらぬ異世界ライフ」を提供していくものだという固定概念が存在した。

 それが本作ではしっかりと設定されていて、登場人物や舞台もそれに沿ったものを用意されており無駄を感じない仕上がりとなっているのです。

 作品を飾り立てるテクスチャも独自性のあるものとなっていますが、まずはこの土台骨における設計の見事さこそが本作の魅力であるといえるでしょう。


 緻密な設定をされた世界観

 さて、本作の舞台設定は先にも述べた通り最終到達点へ向けて無駄なく配置されたものとなっているのですが、それが実に独自的で魅力溢れるものとなっております。

 まず、異世界転移ではあっても「ファンタジー」ではないんですよね。この作品。

 魔法の類は一切登場せず、現地住民達の泥臭い生活スタイルがこれでもかというくらい前面に押し出されている。

 そもそもが、主人公を保護する現地民族達にしたってアフリカの密林とかにいそうな狩人達であるわけで、中世ヨーロッパ風なファンタジー世界が多いなろう小説においては非常にユニークなアプローチをしかけているといえるでしょう。

 文明レベルにおいても、他のなろう小説に見られるゲーム的ですらあると感じる近代的要素は一切排除されており、実に不便で……それが故に魅力溢れる中世ライフを堪能することができます。

 据え膳下げ膳的な異世界ライフもそれはそれで面白いのですけど、中世文化ってのは不便だからこその魅力がありますからね。そこをリアリティある描写にしてくれてるのが面白い。

 現地人達の文化的側面に関しても作中で提示されたゴールに合わせた独自的なものを用意されており、例えば本作の発端部では「狩りを生業にしている現地民族が血抜きについて知らない」というおいおいそれマジか的なイベントを用意されています。
 が、読み進めるにつれてきちんとそうなるに至った歴史的経緯などが語られており、初見では納得しがたいイベントがむしろ設定面の重厚さを増す要素として転化されていくのですね。

 そうやって徐々に徐々に読者の中には既存のどんな作品とも異なる世界観が形作られていき、まさにこの作品でしか味わえない異世界料理道ワールドが確立されるのです。


 魅力溢れる登場人物たち

 これまで述べてきたとおり、本作を構成する要素にはおよそ無駄というものが見受けられずそれは登場人物にまで及んでいます。

 しかしこの登場人物たち、与えられた役柄を果たすだけには留まらぬ個性とエネルギーを有しておりキャラクター小説としてもしっかり楽しめる出来になっているのですね。

 特に僕が気に入ってるのはダン=ルティムという人物で、その強烈なパワーと個性には圧倒されることしきり。
 この人物も自分に与えられた物語上の役割はきっちりと果たしているわけですが、その際に自身のキャラクター性をこれでもかと見せつけ、印象深く記憶に刻み込まれていくのです。

 そうなるのも、登場人物たちが物語をただ進めるための操り人形になっておらず、物語上でその役割を果たすに至った経歴などをきちりと用意されているからでしょう。

 どの人物も、「人間」として描かれているのです。


 まとめ

 そのようなわけで、それこそ出来の良い料理のように厳密なレシピのもと、隙なく構成された良作です。
 一味違うネット小説を楽しみたい方にぜひ、おすすめしたいですね。

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by ejison2005 | 2015-07-30 23:15 | ノベル