長い腕 レビュー

長い腕 (角川文庫)

川崎 草志 / 角川書店


 本作は、第21回(2001年) 横溝正史ミステリ大賞受賞作品です。

 なんでまた、僕がこの作品を読もうと思ったかというと、作者である川崎先生が元セガの人だとプロフィール欄に書かれてたからですね(伏線)。


 あらすじ

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  >  <  \/   \ _,. --─-- |  ┬   ⊥上 ┬r_j_, l 、
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  // \  _,r'"           |十'十 小儿 ┴| 日乂/
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        j≧i{ルzえr‐==宀Y!→三  |    ナ__ぃ ナ ヽ   |〉
      /ト{⌒`´″      l|   三 |    / ー    d、 O
      { }i{             リ  三 |
 \/   ソ -、           三  \__  _____/
 /\   i=-、   ,r==‐一   `ミミ    」/
     _r==≠ー‐' r‐テ宍ぃ,___ヾミ     ヽ、 !
    └}- i 亠}⌒ヽ{ 、_  ̄´ }r───―r‐rイ ⌒トi }| |
      ヽ_!`_j   ヽ _ _ノ'_ノ'´   ノ ミ! i片 l//ll |
        ヽ }   '´ `!       /  ミ!  し'ノ/l!lリ
   \/  、ヽ _ r‐- ノ  `ヽ、       i_,ノヘ川
   /\   川从川从川从  !  i       !   ノル{
          ヽ‐ー→―ー‐ァ'’ j   !      ! }   {_
  ×      ヽi`ー─-^'´/  !      / /    ソヽ
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 転職を控えるゲーム会社の主人公はある日、同僚の変死事件に出くわしてしまう。それだけなら死を悼んで終わりだったのだが、故郷の町で起きた女子中学生による殺人事件とに共通のキーワード「ケイジロウ」を発見し、興味を抱いていくことになるのであった……。


 受け入れやすい文体が特徴

 さて、横溝正史ミステリ大賞受賞作品なんて仰々しい看板が掲げられると、そもそも手に取る前に「面倒くさい文章なんじゃねえだろうな……」と思ってしまったりするものですが、まず、本作の売りとして文章はかなり軽いというか、平たいです。
 かといって、ラノベ並にフォントいじったり擬音使いまくったり、というわけでもなく、個人的には、重すぎず軽すぎずの絶妙なラインを突いている文体だと感じました。ここら辺は、ゲーム業界で仕事をしてきた作者の経験則によるところが大きいのかもしれません。

 いかに名作だと言われようと、今さら夏目漱石やら芥川龍之介やら読むのはかなり厳しいところがあるわけで、本を読む上で最初のハードルである読みやすさ、というのがクリアされているのは、それなりに重要なポイントであるといえるでしょう。


 魅力的な主人公

 小説を読む上でのハードルといえば、文体の読みやすさと並んで重要なのが主人公のキャラクター性なわけですが、僕としては、ここが一番感心したポイントで、ありていにいってこの主人公、萌えます。

 そう、この作品、主人公は女性なのですね。ゲーム会社に勤務する美人のお姉さんで、孤独を愛し、自立心と行動力に富んでいる。絵に描いたような「出来るキャリアウーマン」です。
 つっても、お姉さんという形容通り年は若いですし、周りの登場人物も基本的に大人なのですから、それだけだと単なる「強気の女」で終わってしまうわけなのですが、この作品、中盤でちょっとした助手役として中学生の男子が登場し、紆余曲折の末、主人公の捜査に協力させられるのですね。
 当然ながら、その過程で様々なやり取りが二人の間で行われるわけですが、これがね。素晴らしい萌えポイントなのですよ。
 有能だと主人公の出る幕がなくなってしまう関係上、この男子中学生は色々とおっちょこちょいで、至らないところが多々あるわけなのですが、それを叱ったりたしなめたりといった主人公の行動ひとつひとつが、もう、何というかゾクゾクしますね!

 そもそも、お姉さん属性というのは、お姉さんと敬語で呼ぶ関係上、尊敬や敬服の念を多分に含む萌え属性であると考えられるわけですが、むしろ、そういった感情というのは「あらあらうふふ」と優しくされるよりも、厳しめに接された方が芽生えやすいものなんじゃないかと、一石を投じる主人公像が描かれているといえるでしょう!

 それはさておき、本作における探偵役もこの主人公が努めているわけですが、その捜査手法は基本的に、図書館で資料を漁ったり、そこから得られた情報をもとに聞き込みをおこなったりなど、クトゥルフ神話TRPGのPCを彷彿とさせる非情に地味で、かつ、現実的なものです。

 それ故、関係者一同に会して現場検証ドーン! というクイズ形式的な類の作品とは、また一風変わった味わいを感じられるのも本作のポイントといえるでしょうか。


 どのような事件か?

 文体、主人公のキャラクター性ときて、最後にして最も重要な要素となるのが、どのような事件を扱う作品であるのか? という点でしょうか。というか、ミステリなんだからそこを最初に触れるべきなんだけどね。お姉さん属性に開花した私が阿修羅すら凌駕しちまったから仕方ないね。

 で、まあ、主人公の捜査方法でちらりと触れたけど、本作は殺人に関するトリックとかを調べる類のミステリではなく、主人公の故郷でもある因習に縛られた村……そこに隠された恐るべき真実を探る! といった趣の作品となっております。

 その際、村に隠された真実と並んで重大なポイントとなるのがインターネットでして、発表された当時の時勢を考慮しても、かなり先進的かつ、現実的な役割を果たし、事件に大きく関係する要素となっているのが面白いです。

 いってしまえば、村社会の秘密という古めかしい要素と、インターネットという現代的な要素を見事に融合せしめ、新しい味わいを生み出しているわけで、そういった独自のテイストが評価され、横溝正史ミステリ大賞受賞に繋がったのではないでしょうか。

 伏線の撒き方なども適切かつ巧妙なもので、読み進めるに従ってバラバラに思えていた個々の要素が集約・解明されていく様は、ミステリとしての確かな満足感を与えてくれることでしょう。


 しかしながら、欠点もいくつか散見される

 とはいえ、全てを肯定的に捉えられるわけではなく、欠点もいくつか存在していて、まず、前半100ページあまりは主人公のゲーム会社における勤務風景を描写したものになっているのですが、そのほとんどはゲーム業界に携わった作者の経験を踏まえた体験談的な内容となっており、興味深くは読めるものの、事件そのものとは大して関係ないお話が続きます。

 そして第二に、この作品は人間の持つ歪みや狂気といったものが重大なテーマとなっているわけですが、ストーリーギミック上、別段狂っている必要の無い人物まで狂気を孕んだ行動に及んでしまっている。ミステリである以上、用意したギミックから逸脱した行動を取らせるべきではないと僕は考えますし、かえってテーマをぼやけさせる結果になってしまっていると思います。

 最後に、第三の問題点として、中盤、ある人物が主人公の無謀さに対して忠告をするのですが、そのやり方が明らかに必要以上の過激さと暴力性を含んだもので、これはどう考えても、口頭で丁寧に忠告すれば済んだことでしょう。さほど重要でもない登場人物に対して、いらぬ嫌悪感を抱かせるだけです。

 とはいえ、前半100ページを終えてしまえばそういった問題点は瑣末なものに思えてしまうほどテンポ良く物語は進行し、真相へと迫って行くことになりますし、ラストには、事件を経た主人公の成長が感じられる味わい深いシーンも存在します。全体的にはやはり、意欲的な良作であると断言することが出来るでしょう。


 でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要なことじゃない

 はい、長い前振りを終えたところで、今回のレビューにはオチが用意されています(伏線回収)。

 えー、この作者、最初に述べたとおり元セガの人なんですが、前半、主人公が制作に関わっているゲームの内容が、明らかに当時自らが構想していたゲームなのだと思えるものになっています。

 で、それがどういうものなのかというと、パソコン、ゲーム機、携帯電話をネットで接続し、コミュニケーションを取ることを主体とした代物。

 ……うん。先見の明あるね。ありすぎるくらいあるね。今、ソーシャルゲームとか超流行ってるもんね。

 えー、ここでもう一度、確認しておきましょうか。

 本作は、第21回(2001年) 横溝正史ミステリ大賞受賞作品です。

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 十年早いんだよ!

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by ejison2005 | 2012-05-04 02:12 | ノベル